今日だけ、今日だけは

会うことは叶わなかった。前の彼女には彼氏がいた。

いても全くおかしいことではないし、ごく普通のことだと思う。

でも、やっぱり別れてしばらくも経つのに会いたいと思ったのは多少の未練があったのだと思う。

自分の気持ちに素直になると。奥手だった。私は。キスにも半年かかった。もちろんセックスや性行為はできなかった。それが大きいかな。身体だけを求めるのも最低と思うが、やっぱり初めての彼女って多少の思い入れ方が違うかなとも思う。

人と付き合っていくのって本当に難しいし、付き合っている最中も別れた後もずっとそう思っている。

でも、別れる直前からずっと思っていることは、彼女とはこの先一緒にいることはできないということ。だから、いっそのこと付き合わない方が苦しまずに済んだのではないかとも思うこともある。

でも、異性と付き合うという経験は何事にも代えがたい幸せな経験だったし、大事な思い出でもある。

だからこそ、私は彼女を傷つけたくなかった。裏を返せば責任を負いたくなかったのだ。だから、性行為などセンシティブな行為はできなかった。欲求こそあったものの、理性がその欲求を上回った。

本当に今の心境は言語化するのが難しいのだ。

彼女のことは今でも好きだ。ただその好きは恋愛としての好きなのか、友人(性的な関係)としての好きなのかと問われると、恐らく後者なのだ。

よくある話として、「本当に好きだと抜けない」という一説がある。

思い返してみると、付き合っている時に彼女で抜いたという記憶があまりない。数回はあったかもしれないが。

しかし、今となっては彼女で抜くことは容易だ。顔写真でも抜ける。

なんというか心の底から好きという思いは無くなっていたのだなぁと文章を書いて思った。

ただ、ただそれでも彼女には元気でというか幸せでいてほしいと切に願う。別れるという選択を自ら取ったにも関わらずそんなことを思う俺は馬鹿だろうか。そんなことを言う資格は無いだろうか。

彼女は機会があればまたと返信していたが、恐らく機会が訪れるとしたら彼女が今付き合っている彼氏と別れた時なのだろう。ただ、私には彼氏と別れてくれという感情は一切ない。含みを持たせたのは彼女の慈悲なのだろうか。私には分からない。

彼女が大切だからこそ、会いたい。でも、会いたいということは今の彼女の幸せを否定することにもなると思う。そこまで彼女が気にするとも思えないが、私は考えてしまう。

だから私は彼女の現状を聞いたとき、また会おうとかまたねという言葉は送れなかった。どうか、どうか元気で。そうとしか言えなかった。

彼女の幸せを願うのであれば私に「再び」という言葉はない。

もし別れたら…そんなことは考えない。言えない。

それでも、昔の話になりますが、あなたが好きでした。付き合う前からずっとずっと。付き合えた時は本当に嬉しかったです。毎日がドキドキでした。あなたが笑う顔、泣く顔、一挙手一投足に心が動かされました。

そんな日々を壊したのも私です。向かう方向が違うからあなたを引き離しました。あなたの向かう方向に私は行けない。本当に好きなのであればたとえ方向が違っていたとしてもあなたと一緒にいられるように模索したでしょう。でも、私には私の道があり、その道にあなたを引き込む意志も覚悟もありませんでした。何より私の進む道より、あなたの選ぶ道は何事にも代えがたいあなた自身が定めた強い道だったと思います。

私は別れを告げてから、あなたと話すことはおろか、顔を合わせることすらしませんでした。LINEすらも無視していました。当時の私はなぜそうしたのか。何とも言えぬ嫌悪感と後ろめたさ、それに反する清々しさが当時の私にはありました。今思うと自分自身を前に突き動かそうとした結果だったのではないかと思います。少しでも彼女に接触したら、自分の道がブレてしまいそうになる。もう一回よりを戻そうと考えてしまう。彼女の涙を見たら心が揺らいでしまう。

昔の自分の気持ちは分かりません。自分にとって凄く都合の良い解釈だと思います。

ただ、それと同時に彼女には私と同じように早く前を向いてほしかった気持ちはあったと思います。自惚れかもしれませんが、別れた直後も彼女は私のことを好きでいてくれたと思います。でも、再び彼女と顔を合わせることは、彼女自身の道も私によって揺らいでしまうのではないかと危惧していました。罵倒とかそんな些細な事よりも一度決めたことがお互いひっくり返ってしまうことが怖かったのではないかと今振り返って感じました。

あなたを嫌いになったことは一度もありません。私も幸せだったし、当時のあなたも私の目には幸せそうに見えました。でも、私といるよりももっと、ずっと幸せなことがあると当時から思っていました。

今のあなたの現在の様子を知る術は私にはありません。でも、きっと知る必要もないくらい幸せであると心から願っています。なので、私もあの日々を大事にしながらも、今を歩みます。お互い幸せであれば会うことはもうないでしょう。私はあなたとの思い出にそっとカギをかけます。

それでも、今日だけ、今日だけはあなたのことを思わせてください。

あなたよ あなたよ しあわせになれ

どうか、どうかお元気で。