なんというかめちゃくちゃ面白い!とか伏線が凄い!とかそんな感じではないし、心の隙間を埋めるような感じでもない。
ただ、ズレた心をわずかに元の位置に戻してくれるような本だった。
PMS(月経前症候群)に悩む女性とパニック障害に悩む男性が中心となって少しずつ前進していく物語。
特別どんでん返しがある訳でもなく、サラッと読める本だ。登場人物も少ないし、話の流れもシンプル。
登場人物全員が善良な方々で温かい気持ちにさせられた。
その中でも最後、男性が通っている心療内科の医師が言った「簡単に手に入れられる情報なんて、声が大きい人のものがほとんど」という言葉が印象的だった。
この情報化社会で手に入れることが出来る情報は有益なものも多いが、無益なもの、有害なものはその倍以上あるように思われる。
特にここ数年のインターネットの情報の質はかなり酷い。
パニック障害に悩む男性もネットの体験談などを貪るが故に、必要以上の情報を自分の中に押し込めてしまい、結果的には発作が繰り返されるような感じがあったように思える。
自分の弱みをさらけ出すのは勇気がいる。特に男性のようにパニック障害に陥るまでは仕事もプライベートも充実していた人にとっては、電車に乗ることすらできない自分を認めることも難しいだろう。
それでも彼は前に進んだ。彼女の手助けもありながら。彼女も彼に支えられながら前に進んだ。自己嫌悪や苦しみは人を結び付け、強くする力があると私は思う。
これは恋愛なんて言葉では言い表しにくい。作中にもあった「好きになれる」という言葉は単なる恋愛感情ではないと思う。
もっと人間的に性別を超えた「好き」だと思う。まるで家族のような。
美しい物語だった。